【借金返済】佐川急便の退職金を巡る争い

理由
株式会社
ント

主文

1原判決中,甲事件に関する部分を次のとおり変更する。
(1)控訴人は,被控訴人に対し,778万5161円及びこれに対する平成5年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人のその余の請求を棄却する。
2その余の本件控訴を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも50分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4この判決は,1(1)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求を棄却する。
(3)被控訴人は,控訴人に対し,4468万8354円及びこれに対する平成5年10月9日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
(5)(3)につき仮執行宣言
2被控訴人
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は,控訴人の負担とする。

第2当事者の主張

(甲事件)
1請求原因
(1)当事者
ア東北佐川急便株式会社(以下「東北佐川」という。)は,一般貨物自動車運送事業,貨物運送取扱事業,自動車整備事業等を業とする会社であり,
平成6年9月27日,控訴人に吸収合併された。
イ被控訴人は,昭和54年11月27日東北佐川に入社し,昭和63年6月20日まで勤めた後,佐川急便グループで後に控訴人に吸収合併された京都佐川急便株式会社(以下「京都佐川」という。),東北佐川,同グループ会社である佐川物流サービス株式会社(以下「佐川物流」という。)の各代表取締役社長,控訴人の代表取締役副社長を歴任した。
(2)取締役の選任及び解任
ア被控訴人は,平成元年7月29日,東北佐川の株主総会において東北佐川の取締役に選任され,同時に東北佐川の取締役会において代表取締役に選任され,その後,平成3年5月25日及び平成5年6月17日に各重任され,取締役としての予定任期は平成7年6月の定期株主総会終結時(最終日,同年6月20日)までであった。
イ被控訴人の東北佐川における役員報酬は,月額600万円であった。
ウ東北佐川は,平成5年8月18日,臨時株主総会を開催して,被控訴人を取締役から解任した(以下「本件解任」という。)。
(3)取締役の解任に正当事由がないこと
本件解任は,さしたる理由がないのに,東北佐川の意向に添わない者を,適正手続を無視して,無理矢理解任したものであり,解任に正当事由はない。
(4)取締役解任に伴う損害
被控訴人は,本件解任により,次のとおり,4億3238万7097円の損害を被った。
ア役員報酬1億3238万7097円
被控訴人の残任期間は平成5年8月19日から平成7年6月20日までの1年10か月と2日間(1か月を31日間として)であった。
本件解任がなかったならば,東北佐川から被控訴人に支給されたはずの役員報酬は,1億3238万7097円である。
イ役員退職金3億円
東北佐川においては,役員が退職する際には役員退職金が支給されていたところ,被控訴人の東北佐川における業績,東北佐川への貢献度及び被控訴人の取締役としての在任期間(解任がない場合の6年間)を考慮した退職金相当額は3億円である。
(5)未払役員報酬
東北佐川の役員報酬は毎月20日締めの翌月5日払いであり,平成5年7月21日から同年8月18日までの29日間の役員報酬は,1か月を31日間とすると,561万2903円である。
(6)従業員としての退職金
被控訴人は,東北佐川に昭和54年11月27日から昭和63年6月20日まで少なくとも8年6か月間は勤務しており,この勤務期間に対する退職金は264万円であり,この金員は退職後1か月以内に支払われることになっていた。
(7)よって,被控訴人は,控訴人に対し,商法257条1項ただし書による損害賠償請求権に基づき4億3238万7097円,役員報酬請求権に基づき561万2903円,退職金請求権に基づき264万円の合計4億4064万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成5年12月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2控訴人の主張(請求原因に対する認否)
(1)請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)アの事実は認める。
同(2)イの事実は否認する。
同(2)ウの事実は認める。
(3)同(3)は否認する。
本件解任には,次のとおり,正当な事由があった。
ア控訴人東京支社債権管理室長としての職務怠慢及び管理能力の欠如(ア) 被控訴人は,平成4年9月11日,控訴人東京支社の債権管理室長に就任し,旧東京佐川急便株式会社(以下「東京佐川」という。)の債務保証等に関連する債権債務及び不動産の整理処分についての調査と換価手続の責任者となった。
(イ)債権管理室では,既に不動産等についての調査を株式会社チョイスジャパン(以下「チョイス」という。)に依頼していたが,被控訴人は,同調査をチョイスで賃仕事をしていた株式会社テッド(以下「テッド」という。)に委託した。
(ウ)調査費支払に関する職務怠慢
被控訴人は,上記委託の際,見積書の点検を行わず,見積額が10日程度の間に1億円から3億円に増加していたにもかかわらず,正確な委託契約を締結しないまま,テッドからの請求書に基づき,以下のとおり,
総額3億0900万円の支払をした。
a平成4年11月27日5000万円
b同年12月21日5000万円
c同年12月23日5000万円
d平成5年1月29日5000万円
e同年3月5日1億0900万円
(エ)管理能力の欠如
a控訴人は,テッドに対し,下請けに外注した調査費用については実費相当分を支払っていたが,テッドの代表取締役A(以下「A社長」という。)は,下請け先である三和開発技研株式会社(以下「三和開発」という。)名義の領収証及び請求書を以下のとおり偽造し,当該金額分を外注費用として控訴人に請求した。
(a)領収証支払年月日白紙1000万円
(b)領収証平成4年11月日3000万円
(c)請求書同月15日8200万円
(d)領収証同年12月日3000万円
(e)領収証平成5年1月日3000万円
(f) 領収証同年2月2000万円
(g)請求書同月5日2400万円
b前記偽造領収証等は,領収証の収入印紙に会社の割り印がない,領収番号,領収の日付の記載がない,会社の社印が全く同じ角度で押印され,全て同一である等,少し注意すれば容易に偽造であることが識別できるものであった。
cしかるに,被控訴人は,同偽造領収証等を偽造であると識別でき
ず,
テッドの請求どおりに,同偽造領収証等の分も含めて調査費用を支払った。
(オ)控訴人では,テッドに対し異常に多額の調査費用が支払われていること,契約内容に不明朗な点があること,経理部等の事前審理を受けるべきであるのに事前審理のための稟議書を回付していないことなどの事実があり,控訴人に多額の損害が発生しているので,被控訴人に報告を求めたが,被控訴人は,誠意ある報告をせず,関係書類をシュレッダーで破棄する等の証拠隠滅行為をするなどし,その後も控訴人の調査に全く協力せず,疑問点についての具体的な事情説明を行わず,債権管理室の扱う債権額からすれば3億円くらいの費用は当然であるとの態度を取り続けた。
(カ)前記債権管理室における職務は東北佐川を含む佐川急便グループの重要な職務であったところ,以上の被控訴人の行為は,控訴人のみならず,
東北佐川における被控訴人の職務怠慢ないし管理能力の欠如を示すものといえる。
イ不正貸付け
(ア)東北佐川は,被控訴人に対し,平成2年7月18日に4000万円,平成4年7月31日に1000万円を貸し付けた。
(イ) (ア)の両貸付けのいずれに際しても,被控訴人は,取締役会の承認を受けなかった。
(ウ)(ア)の両貸付けは,いずれも,被控訴人が東北佐川の代表取締役であったことを奇貨として,その地位を利用して東北佐川の金員を私的に流用したものであり,不正な自己取引である。
ウ有限会社藤物流(以下「藤物流」という。)及び有限会社フジ物流(以下「フジ物流」という。)に対する不当な利益供与
(ア)被控訴人は,佐川物流の代表取締役も兼任していた。
(イ)藤物流及びフジ物流は,いずれも東北佐川とは提携関係のない全くの第三者であるのみならず,フジ物流は東北佐川の競業業者である。
(ウ)a佐川物流は,運送事業者として,車両管理業務を自ら行うべきであった。
bしかるに,被控訴人は,佐川物流をして,一般区域貨物自動車運送事業の免許を受けていない藤物流に対し,佐川物流の車両管理業務を委託させ,委託料として,平成2年6月1日から平成3年8月20日までの間に474万円を支払わせた。
cこのような行為は,明らかに運送業法に違反し,運送業者として免許取消しの事態をも招きかねないものであり,取締役としての善管注意義務に違反するものである。
(エ)被控訴人は,佐川物流をして,藤物流に対し,平成2年7月及び同年8月に各119万円の合計238万円を荷捌き料として支払わせているが,藤物流は荷捌き業務を行っておらず,この支出は不正支出である。
(オ)被控訴人は,佐川物流をして,藤物流に対し,平成2年7月11日及び同年8月11日に各134万円,フジ物流に対して平成3年6月28日に230万円を貸し付けさせたが,これは佐川物流の会社規定に違反する不当行為である。
(カ)被控訴人は,大型車運転手を佐川物流から8名,藤物流から4名,フジ物流に移籍させた上,平成3年4月20日から平成4年1月20日までの間,佐川物流の営業車両に乗車させた。
これは,名義貸し行為に当たり法令違反行為である上,フジ物流に対する不当な利益供与である。
(キ)被控訴人は,佐川物流ないし東北佐川の取締役会の承認を得ることなく,佐川物流をして,フジ物流に対し,大型中古車両9台を譲渡させ,さらに,東北佐川をしてその所有地179坪を駐車場として,控訴人の子会社の佐川自動車株式会社(以下「佐川自動車」という。)をしてその所有地200坪を事務所等として,フジ物流に対し,それぞれ提供させるなどして,同社に不当な便宜供与を行った。
エ東北佐川における不正支出
(ア)被控訴人は,東北佐川から,東北佐川の代表取締役を解任される前日である平成5年7月30日,調査費用名目で仮払金500万円を受領した。
(イ)被控訴人は,控訴人の調査に対し,(ア)の仮払金の使途を明らかにしない。
(ウ)被控訴人は,平成4年9月から平成5年2月までの間に東北佐川から調査費等名目の仮払金として合計350万円を受領し,使途不明のまま清算していない。
(エ)被控訴人は,東北佐川の金員150万円を平成5年7月19日,エムディ化粧品東北販売株式会社(以下「エムディ」という。)に調査費用として支払っているが,これは個人目的に流用したものである。
オ被控訴人の東北佐川の取締役として会社との間で保持すべき信頼関係を著しく損なう行為
(ア)佐川急便グループは,同グループに属する各社を,平成2年4月20日までは清和商事株式会社(以下「清和商事」という。)が,同日(登記簿上は同年5月16日)同社が京都佐川と合併して控訴人が発足した後は控訴人が,統括会社として運営する組織形態をとっている。
平成3年夏当時の東京佐川代表取締役社長Bらにより東京佐川が巨額の保証債務を負担していることが発覚したいわゆる東京佐川急便事件が明らかになり,これに対処するため,平成4年5月11日付けで控訴人が大阪佐川急便株式会社外4社と合併(第1次合併)し,代表取締役社長に現代表者社長であるC(以下「C」または「C社長」という。),同副社長にDが就任した後,控訴人の経営陣は,合併後の控訴人を「新生佐川」と位置づけ,その経営について,取締役会を中心とする透明な運営を貫徹するとの方針を立て,以後その方向での経営を行うと共に,全国の佐川急便グループ各社に対しても,このような方針で運営することを求めた。
(イ)清和商事代表取締役社長であった控訴人創立者の長男であるEは,同社合併後の控訴人にあっては単なる取締役の地位に止まっていたが,東京佐川急便問題等に関し,取締役会等に諮ることなく控訴人烏丸店内(旧清和商事本社のあった場所)に私的な監査チームを設けて北関東佐川急便株式会社等に対する監査を行うなどの独自の動きをするなどしてF会長の信頼を失い,平成3年7月に控訴人の取締役を解任された。
しかるに,Eはその後も控訴人の方針に反する行動を繰り返していたところ,
被控訴人は,そのような同人と意思を相通じて行動を共にし,例えば,控訴人取締役を解任されたEを被控訴人が人事権を掌握していた東北ブロックの佐川急便グループ各社の取締役に就任させるなど,控訴人の経営陣の前記方針に同調しない姿勢を示すようになった。
そして,被控訴人は,D副社長を興信所の者が尾行していたことに関与していた同グループの山形佐川急便株式会社代表取締役(山形佐川店長)Gの解任に際しては,同人の解任理由がそうであることを知りながら,敢えて解任理由の開示を求めたのみならず,解任自体に異議を述べ,取締役会議事録の署名も拒否したのであり,これは,東京佐川急便事件後,会社の存亡を賭けた再建のためにC社長及びD副社長を筆頭として取締役会を中心に適正な経営を進める「新生佐川」の方針に根底から反するものであって,佐川急便グループの主管店としての東北佐川の取締役の忠実義務の重大な違反に当たる。
このような被控訴人をそのまま放置したのでは,東北佐川を中心とする東北ブロックが,佐川急便グループを統括する控訴人の経営方針に従わず,また当時具体的な日程の検討に入っていた東北佐川,九州佐川急便株式会社等9社を控訴人と合併する第2次合併計画の遂行に支障をきたすおそれがあり,そうなれば,佐川急便グループ全体の経営に大きな影響を与えることとなるところであった。
したがって,このような被控訴人の,東北佐川の取締役ないし代表取締役として会社との間で保持すべき信頼関係を著しく損なう行為を理由とする解任には正当な事由がある。
なお,原審でこの主張をしなかったのは,控訴人において,E氏に対する態度を決めかねていたためであり,当審において,同氏に対する対処方針が確定したため,それに基づきこの主張をするに至ったものである。
(4)同(4)は,否認ないし争う。
平成7年当時,控訴人にとっては,東京佐川急便事件に関連し,膨大な債務負担問題の解消に向けて,グループ会社を挙げて再建に向け努力している状態にあったから,被控訴人が解任されずに任期を終了しても,従業員としての退職金と別に多額の役員退職金の支給を決定したかどうかは未知数といわざるを得ず,役員退職金が本件解任により被控訴人の受けた損害ということはできない。
仮に,なにがしかの役員退職金を支給するとの株主総会の決議がなされることが予想できるとしても,その額が3億円を下らないとは到底いえない。
なぜなら,被控訴人の東北佐川での基本給月額は名目600万円であったようであるが,この額が平成7年6月まで維持される保障は何もない。
のみならず,この600万円のうちには,控訴人の被控訴人に対する貸金の返済に充てさせるため控訴人から被控訴人に贈与された分が含まれ,被控訴人の給与はその分が増額されて平成2年9月までの350万円が,同年10月から420万円に,平成3年7月から500万円に,平成4年9月から600万円に増額されてきたという経緯があり,これに照らすと,被控訴人の純粋の報酬額としては,せいぜい月額350万円ないし400万円程度であったと見るのが妥当だからである。
さらに,任期満了時に支給されたであろう役員退職金額が一応推認できたとしても,その額が当然に商法257条1項の損害賠償の額になるものではなく,本件解任と相当因果関係が存する損害,すなわち社会通念上相当と認められる範囲の損害に限られると解されるから,その額が3億円といった莫大な額になることはあり得ない。
(5)同(5)の平成5年7月21日から同年8月18日までの29日間の役員報酬が1か月を31日間として561万2903円であることは否認する。
東北佐川の役員報酬が毎月20日締めの翌月5日払いであることは明らかに争わない。
被控訴人の平成5年7月21日から同年8月18日までの報酬は,119万5330円である。
(6)同(6)の事実は認める。
3控訴人の主張に対する被控訴人の主張及び反論
(1)控訴人の2(3)アの主張について
ア2(3)ア(ア)のうち被控訴人が控訴人東京支社の債権管理室長に就任し,東京佐川の債務保証等に関連する債権債務及び不動産の整理処分についての調査と換価手続の責任者となったことは認め,その余は否認する。
被控訴人が債権管理室長に就任したのは平成4年9月27日である。
イ同(イ)の事実は認める。
控訴人がチョイスにその主張の調査を依頼した時期は被控訴人の赴任が決定してからであるが,被控訴人がその調査をテッドに依頼したのは,同社は控訴人と以前にも取引があり,かつ,チョイスの調査の際にも下請けとして具体的な調査を引き受けていて,債権回収に向けた具体的かつ詳細な調査は,ホテル業が本業のチョイスよりもテッドがふさわしいと判断したからである。
ウ同(ウ)の事実のうち,被控訴人がテッドからの請求書に基づき,同aないしe記載のとおり総額3億0900万円を支払ったことは認め,その余は否認する。
エ同(エ)a,同cの事実は認め,同bの事実は否認する。
オ同(オ)の事実は否認する。
カ同(カ)の事実のうち債権管理室における職務が東北佐川を含む佐川急便グループの重要な職務であったことは認め,その余は否認する。
被控訴人が債権回収担当となったのは,東京佐川急便事件発覚後1年以上を経ているのに,東京佐川関係の債権回収の段取りが遅々として進まなかったため,業を煮やしたF会長の指示で被控訴人がその役割につかされたものであり,被控訴人の債権管理室長就任当時,東京佐川の社内で債権回収の体制は全くといってよいほどとられておらず,C社長や副社長Dら経営陣がいかに真剣に取り組んでいなかったかを示すものである。
被控訴人は,そのような極めて困難な状況の中で佐川急便グループのためにそれまでの執行陣が進めていなかった債権回収業務に積極的に取り組み,急ピッチで進めていたところ,その過程で,東京佐川急便事件の様々な問題の背景を調査していることを快く思わない(あるいは不安に思う)控訴人の経営陣から排除されるに至ったものである。
このような被控訴人の債権管理室からの排除は,控訴人のためを考えて業務を遂行していた被控訴人にとっては,極めて残念な経緯であったし,その後東京佐川急便事件に関する債権回収業務は実際上ほとんど進んでいないと考えられる。
(2)同イの主張について
ア同イ(ア)のうち東北佐川が被控訴人に対し,平成2年7月18日に4000万円,平成4年7月31日に1000万円を交付したことは認め,その余は否認する。
前者の金員は,東北佐川の元代表取締役Hに対する,後者の金員は,有限会社松山佐川急便(以下「松山佐川」という。)の元代表取締役Iに対するいずれも東北佐川による各種調査のための費用として受領したものであって,秘密保持のため被控訴人に対する貸付金の形式を取り,かつ税務対策上利息を付したにすぎないものであり,そもそも返還が予定されておらず,現実に同調査費用として費消したものである。
イ同(イ)の事実は否認する。
そもそもこの各支出はいずれも前記のとおり調査費用の支出であるから代表取締役の権限内の行為であって,取締役会の承認を得る必要はない。
なお,この各支出については,それぞれ取締役会を構成する取締役F及び同Eの承認を得ている。
ウ同(ウ)の事実は否認する。
(3)同ウの主張について
ア同ウ(ア)の事実は認める。
イ同(イ)の事実は否認する。
藤物流の代表者Jは,昭和52,3年ころから,東北佐川の荷物を区域外に運ぶ路線業務を引き受けていた日本貨物急送株式会社(以下「日貨」という。)の佐川急便専属の担当として,従業員を引き連れて東北佐川の業務に従事し,昭和60年に藤物流を設立し,引き続き,日貨の元で東北佐川及び佐川物流の運送業務や荷捌き業務に従事した。
そして,藤物流は,佐川急便グループの荷物に関する路線業務を行う各会社の元締めである東日本運輸興業株式会社(以下「東日本運輸」という。)
の東北佐川関係の専属的下請けとなり,自ら車両を購入するなどして業務内容を広げ,平成2年12月には,実質的同一会社といえるフジ物流を設立した。
以上のように,藤物流及びフジ物流は,佐川物流を含む佐川急便グループの業務を専属的に行う関連会社であり,東北佐川及び控訴人の業務遂行上欠かせない存在の会社である。
ウ同(ウ)aの事実は否認する。
エ同bの事実のうち,佐川物流が藤物流に対して,平成2年9月分ないし平成3年8月分として合計474万円を支払ったことは認め,その余は否認する。
オ同cの事実は否認する。
カ同(エ)の事実のうち,佐川物流が藤物流に対し,平成2年7月及び同年8月に各119万円の合計238万円を荷捌き料として支払ったことは認め,
その余は否認する。
藤物流は,当時増車を予定していた佐川物流から増車分に対応する運転手の派遣を要請され,藤物流において新規に社員を7名雇用し,これら新入社員を教育のために藤物流の車両に乗せたため,その間,藤物流に従前から勤務していた運転手に運転業務をさせることができなくなったことから,当該運転手らを佐川物流に派遣し,佐川物流のホームで働かせざるを得なかったが,藤物流は,同措置が雇用者である藤物流の都合によるものであるため,それらの運転手に対し運転手としての給与を保障せざるを得なかった。
そこで,藤物流は佐川物流に対し,これら運転手の給与分をホーム作業員人件費として請求し,佐川物流も上記事情を勘案して,この請求に応じたものである。
キ 同(オ)の事実のうち,佐川物流が藤物流に対して,平成2年7月11日及び同年8月11日に各134万円,フジ物流に対して平成3年6月28日に230万円を貸し付けたことは認め,その余は否認する。
そもそも藤物流及びフジ物流は,前述のとおり,佐川急便グループの業務を専属的に行う関連会社であり,これら貸付けは,そのような関連会社である両社が,東日本運輸の下請けとして業務を行っていく上で自社の車両を購入する資金等が必要であるとして申し込まれたもので,佐川物流としても会社の利益にかなうものと判断して利息を付して貸し付けたものであり,かついずれも回収済みである。
ク 同(カ)の事実のうち,大型車運転手が佐川物流から8名,藤物流から4名フジ物流に移籍したこと,これらの運転手らが平成3年4月20日から平成4年1月20日までの間佐川物流の営業車両に乗車したことは認め,その余は否認する。
ケ 同(キ)の事実のうち,佐川物流がフジ物流に対し,大型中古車両9台を譲渡したこと,東北佐川がその所有地179坪を駐車場として,佐川自動車がその所有地200坪を事務所等として,フジ物流に対し,それぞれ提供したことは認め,その余は否認する。
そもそも被控訴人は佐川自動車の取締役ではない。
また,上記大型車の譲渡については,当時佐川急便グループにおいて,以前は東北佐川が行っていた運行を佐川物流に移しており,取締役間では,
更に将来的には労働時間短縮の促進や賃金額等の点から,運行を下部の関連会社に移していこうとの経営戦略を持っており,その一環として,佐川物流の中古車両を簿価で佐川自動車を介してフジ物流に譲渡したものである。
そして,駐車場の貸与は,前記のとおり佐川急便グループの業務を行っていたフジ物流に,業務の遂行上必要とされた駐車場を1か月10万円という賃料で貸与したものである。
(4)同エの主張について
ア同エ(ア)の事実は認める。
この500万円は,当時仙台市長,宮城県知事が収賄容疑で逮捕された事件に関連して調査が必要になって仮払いしたが,平成5年8月18日,被控訴人が取締役を解任されたため,被控訴人は同日清算を行い,また,エムディは被控訴人の取締役解任後500万円を東北佐川に返還した。
イ同(イ)の事実は否認する。
ウ同(ウ)の事実のうち,被控訴人が東北佐川から平成4年9月から平成5年5月までの間に調査費等名目で,仮払金合計350万円を受領したことは認め,その余は否認する。
この350万円は,いわゆる東京佐川急便事件後,佐川急便グループに対する風当たりが強く,営業活動にも支障を生じており,Bらに対して損害賠償請求訴訟を起こすべきであるという意見が出たため,同人と合併後の控訴人の役員とのつながりを調査する必要があり,そのために支出された。
エ 同(エ)の事実のうち,東北佐川が平成5年7月19日,エムディに調査費用として150万円を支払ったことは認め,その余は否認する。
この150万円は,前記アと同様に,当時仙台市長,宮城県知事が収賄容疑で逮捕された事件に関連した調査費用として支払われた。
なお,エムディは,被控訴人の取締役解任後この150万円を東北佐川に返還した。
(5)同オの主張について
ア時機に後れた防禦方法の却下
控訴人の2(3)オの主張は,1審で5年かけて審理し,その間に十分に主張する時間も機会もあったのに主張せず,控訴審において全く唐突になされたものであり,時機に後れたものである。
イ同(ア)のうち,佐川急便各社に関する合併の経緯や取締役・代表取締役の推移については認める。
ウ同(イ)のうち,控訴人烏丸店内に監査チームがあったこと,被控訴人がGの解任の理由の開示を求めたこと,平成4年1月から3月にかけてEが東北ブロック内の佐川急便グループ各社の取締役になったことは認め,その余は不知もしくは争う。
清和商事が,京都佐川と合併して,控訴人となった後も,従前清和商事本社のあった場所である控訴人烏丸店で合併後のグループの統括機能が営まれ,合併後の代表取締役であったKの下に監査チームがあり活動していたものであって,これをEの私的監査チームというのは誤りである。
Eは,東北ブロック各社の取締役となった当時,東北佐川の代表取締役でかつ筆頭株主であり,同社の業務に関与していた。
そこで,東北ブロック各社の取締役に欠員が生じた際,被控訴人は,株主であるFの指示により,上記地位にあったEを充てたものであり,東北佐川が傘下のブロック各社の人事権を有していることからして,この任命に何ら問題とされる点はない。
Gの解任の手続は,山形佐川急便株式会社臨時株主総会の正式な開催手続が一切践まれておらず,解任の対象であるGにも当日朝連絡したのみで正式の弁明の機会が与えられてなく,さらに同社の株主である東北佐川の議決権の行使に関しても,東北佐川内部の正式な手続をとらずに代表取締役としてCが独断で行っているのであって,これらの点において問題のあるものであったから,被控訴人がこの解任の際に理由の開示を求めたことはむしろ正当な行為というべきである。
4抗弁相殺
(1)東北佐川は,被控訴人に対し,平成4年7月31日,1000万円を貸し渡した。
(2)東北佐川は,被控訴人に対し,平成5年9月27日付け内容証明郵便をもって,被控訴人の役員報酬請求権と(1)の貸付金の内金923万2672円を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
5抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)の事実中,東北佐川が被控訴人に対し平成4年7月31日に1000万円を交付したことは認め,その余は否認する。
この金員は,松山佐川の元代表取締役Iに対する各種調査のための費用として受領したものであり,秘密保持のために被控訴人に対する貸付金の形式をとり,税務対策上利息を付したものであって,現実に調査費用として費消した。
(2)同(2)の事実は認める。
(乙事件)
1請求原因
(1)東北佐川は,被控訴人に対し,平成2年7月18日,4000万円を次の約定で貸し渡した。
ア弁 済 期平成25年10月5日
イ弁済方法平成2年11月から平成25年9月まで28万円ずつを毎月5日限り支払い,同年10月5日限り9万6520円を支払
う。
ウ利 息年6.5パーセント
エ損 害 金年14パーセント
オ特 約被控訴人が弁済途中において東北佐川を退社した場合には借入残金を一括返済する。
(2)東北佐川は,被控訴人に対し,平成4年7月31日,1000万円を次の約定で貸し渡した。
ア弁 済 期平成11年7月5日
イ弁済方法平成4年9月から平成11年6月まで15万円ずつを毎月5日限り支払い,平成11年7月5日限り15万8604円を支
払う。
ウ利 息年6.5パーセント
エ損 害 金年14パーセント
オ特 約被控訴人が弁済途中において東北佐川を退社した場合には借入残金を一括返済する。
(3)被控訴人は,平成5年8月18日,取締役を退任し,東北佐川を退社した。
(4)東北佐川は,被控訴人に対し,平成5年9月28日,前記両貸金を同年10月8日までに返済するよう催告した。
(5)よって,控訴人は,被控訴人に対し,金銭消費貸借契約に基づき,4468万8354円及びこれに対する支払期限後である平成5年10月9日から支払済みまで約定の年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
2請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)の事実のうち,平成2年7月18日,東北佐川が被控訴人に対し4000万円の金員を交付したことは認め,その余は否認する。
同金員は,東北佐川によるHに対する各種調査のための費用として受領し,
秘密保持のために被控訴人に対する貸金の形式をとり,税務対策上利息を付しただけであり,そもそも返還は予定されておらず,かつ,現実に同調査費用として費消したものである。
(2) 同(2)の事実のうち,平成4年7月31日,東北佐川が被控訴人に対し1000万円の金員を交付したことを認め,その余は否認する。
同金員は,東北佐川によるIに対する各種調査のための費用として受領し,
秘密保持のために被控訴人に対する貸金の形式をとり,税務対策上利息を付したものであり,そもそも返還は予定されておらず,かつ,現実に同調査費用として費消したものである。
(3) 同(3)の事実のうち,被控訴人が平成5年8月18日東北佐川を退社したことは認め,その余は否認する。
被控訴人は,同日,取締役を不当に解任されたものである。
(4)同(4)の事実は認める。

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第3当裁判所の判断

1甲事件について
(1)請求原因(1),(2)ア及び同ウの各事実は当事者間に争いがない。
(2)同(3)(取締役解任に正当事由がないこと)について
ア取締役解任に正当事由がないといえるためには,控訴人が正当事由として主張する諸点がすべて否定されることが必要であると解されるので,以下控訴人が主張する諸点について検討する。
なお,この場合正当事由があるというためには,解任の自由と取締役の地位の保護との調和を図ろうとする商法257条1項の趣旨に鑑みると,単に会社との間の主観的な信頼関係の喪失をいうだけでは足りず,それが業務執行の障害となるべき客観的状況の存することが必要であると解すべきところ,控訴人の主張もこのような趣旨をも含んでいるものと解することができる。
そこで,このような観点から以下検討することとする。
なお,控訴人の主張中,不正貸付の点((3)イ)についての認定判断は,原判決68頁3行目の「調査費」の次に「等」を,同71頁11行目の「株式会社」の次に「(旧まんさい商運)」を,同74頁7行目の次に改行して「また,前記認定の金銭消費貸借契約やその後東北佐川と被控訴人との間で作成された覚書(甲B1の1,2,3の1,2,甲B1の4,5,甲B2の3)による約定に従って,東北佐川から被控訴人に毎月支給されていた役員報酬から「その他固定」の費目で(甲A13の1ないし8)天引して貸付金名目で被控訴人に支出された金員の支払に充てられていたことは後記認定のとおりであるが,被控訴人が東北佐川に支払ったその元利金相当額は役員報酬等で填補する予定となっていたことは前記認定のとおりであるところ,上記覚書による支払額の増加に伴う上記天引額の増額の都度,ほぼ時期を同じくして後記認定のとおりその天引額を上回る報酬額の増額が図られていることが認められるのであり,この事実に照らせば,被控訴人に対し,そうした手当がなされる予定がない場合にまで,被控訴人に上記金銭消費貸借契約による金員の支払を義務づけたものとまでは認めることができない。」を,同8,9行目の「作成され」の次に「,天引による返済を装ってい」をそれぞれ加え,同68頁5行目の「会社」を「外車」に,同75頁3行目の「抗弁1(二)」を「控訴人の主張(3)イ」にそれぞれ改めるほか,同62頁冒頭から同75頁3行目末尾までにおいて説示するとおりであり,藤物流及びフジ物流に対する利益供与の点((3)ウ)についての認定判断は,原判決79頁11行目の「ウ」を「オ」に,同80頁2行目の「オ」を「カ」に,同9行目及び同83頁1行目の各「抗弁1(三)」をいずれも「控訴人の主張(3)ウ」にそれぞれ改めるほか,同75頁5行目冒頭から同83頁1行目末尾までにおいて説示するとおりであり,東北佐川における不正支出の点((3)エ)についての認定判断は,同88頁末行の「抗弁1(四)」を「控訴人の主張(3)エ」と改めるほか,同83頁3目冒頭から同88頁末行末尾までのとおりであるから,これらを引用する。
当審における証拠調べの結果によるも,引用にかかる原判決の認定判断を覆すに足りない。
したがって,これらの点が正当事由になるとすることはできない。
イ前記争いのない事実,証拠(甲A11,12,15ないし19,31ないし36,39ないし43,乙A1,9,10,28ないし30,32ないし49,61ないし63,66ないし68,72ないし84,86ないし92,乙B2,5(以上につき,枝番あるものは枝番も含む。),証人L,同M,同N,被控訴人本人(原審及び当審))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)被控訴人は,昭和54年11月27日に東北佐川に入社し,以来その従業員として勤務を続け,昭和61年4月1日からは同仙台店営業部長となっていたところ,昭和63年6月21日,佐川急便グループ創設者のFの意を受けて,京都佐川の代表取締役社長に就任し,平成元年7月29日には,F及びEの意を受けて,同日付けで解任されたH(その後同人は取締役も解任となった。)の後任として東北佐川代表取締役社長に就任した。
当時,Fの長男で清和商事の代表取締役社長であったEは東北佐川の代表取締役も兼任しており,Fもその取締役となっていた。
ところで,Hは,平成元年4,5月ころからFを批判する言動を繰り返し,東北佐川及びその資本系列下の法人の従業員に,佐川急便グループ及びFを誹謗中傷するビラ約1000枚を配布するなどして,前記解任に至った(その後平成2年7月18日,Hが東北佐川,控訴人及びFを相手に損害賠償請求を提訴するに至った。)ことから,被控訴人は,東北佐川代表取締役社長着任に当たり,Fから,Hの行動の背景事情を徹底的に調査するよう指示を受けた。
既に,被控訴人のもとでHの在任中の不正疑惑を調査するようにとのE社長の指示により平成元年8月ころから東北佐川に派遣されていた清和商事従業員O及びPがその調査に当たっていたが,被控訴人は,赴任後,Hが争う姿勢を崩さず訴訟を起こす気配を示していた上,Bとのつながりを吹聴するようになったことから,Hの行動の背景やその東北佐川代表取締役在任中の行状を詳細に調査する必要に迫られて,Eにその旨報告し相談した。
これに対し,Eは,Hの解任の問題が生じた当時から,密かにBの特別背任行為を調査し,その過程で,Hが頻繁に東京佐川のBのもとを訪れていることがわかっており,また,Hとの裁判を担当している被控訴人からの報告により,控訴人の全国主管店社長会議(当時は清和商事において開催していたものと思われる。)において発表されたHとの裁判に関する数々の調査報告が会議後すぐHに洩れていることを知っていたことに加え,当時全国の佐川急便グループを監査する経理監査室が清和商事内に設けられていたところ,その部署は事実上Bの意のままに動かされていると認識していたことから,被控訴人に対して,調査していることや調査内容が他に洩れないよう注意して慎重に調査するよう指示した。
そこで,被控訴人は,Eのこの指示を承けて,前記認定のとおり,平成2年4月ころ,エムディ社長のQにHの代表取締役在任中の不正行為等の調査を依頼した。
(イ)佐川急便グループは,運送免許を持たない清和商事が全国に及ぶ運送会社グループを統括するという業務形態をとっていたところ,そのような業務形態は望ましくないとの運輸省の行政指導を受け,平成2年4月20日,京都佐川を存続会社として同社と清和商事が合併して,同年5月16日その登記がなされ,その際商号変更して控訴人(後記の第1次,
第2次合併前のもの)となり,それに伴い従来清和商事が担っていたグループ各社を統括する機能は控訴人本社(旧京都佐川本社)に移されたが,Eは,引き続き控訴人烏丸店(旧清和商事本社)において,清和商事社長であったころの権威を傘に従前グループ各社の監査及び指導を担当していたスタッフに対し同様の業務を行わせていた。
そして,Eは,平成2年夏ころから,Bの東京佐川の乱脈経営及び沖縄佐川急便問題を調査するとして,当時取締役をしていた九州佐川急便株式会社(後記第2次合併による控訴人に吸収合併)から同年8月6日に5億円を,同年11月22日に10億円を借り入れるなどした上,その資金の相当額をRに調査費や謝礼名目で支払っていた。
(ウ)平成3年7月ころ,東京佐川の代表取締役社長Bや常務取締役Sらにより東京佐川が組織暴力団幹部らに対して乱脈融資,多額の債務保証などを行っていたことや右翼ともつながりがあったことなどが判明したいわゆる東京佐川急便事件が発覚して社会の注目を浴び,Bは,同月11日,東京佐川代表取締役を,同月24日には同取締役をいずれも解任された。
同月11日,Bの後任の代表取締役に,当時中京佐川急便株式会社代表取締役社長であったDが就任し,当時大阪佐川急便株式会社代表取締役社長であったCも東京佐川の代表取締役となった。
(エ)控訴人が統括する佐川急便グループ及び東京佐川は,いわゆる東京佐川急便事件発覚後すぐの同年8月ころ,T経理部長を責任者,経理部のLを担当者とし,これに主管店の経理担当者の中から6,7名を応援として加え(もっとも,この応援の者たちは秋ころには元の主管店にそれぞれ戻され,その後は実質的にはL一人が担当する状態となった。),さらに,社外の倒産関係事件を得意としている弁護士らを中心に税理士や公認会計士も加わったメンバーらにより,同事件によって東京佐川が負った約5000億円とも推定された保証債務の処理方策の検討体制を作り,その作業を開始した。
税理士や会計士は支払関係の確認と合併に向けての調整(後記のとおり合併の方針が固まったころから)を主に行い,弁護士は弁護団を結成し,各債務者に対する保証債務の詳細についての聞き取り調査及び債権者である銀行との折衝を主に担当し,Lは弁護士から調査結果等の報告を受け書類をまとめることを主な仕事としていた。
控訴人としては,債権者である銀行団の支援がなければ会社の立ち直りも困難になることから,債権者である銀行団をとりまとめて,その支援を受けることを最重点の目標として動いており,前記のうち弁護団は,調査結果を相関図に表したり,平成3年9月6日付けで主債務者名,残債務,自力返済,保全額,要履行額,調査した法律事務所を一覧表にした保証債務集計表を作成したりして調査作業を進め,控訴人の上層部や弁護団の協議において一時は東京佐川のみ会社更生法の手続により倒産処理することを考慮したこともあったが,東京佐川の保証債務のうちのかなりの部分につき控訴人(旧京都佐川)が保証をしていることが判明したことにより,この処理方法によることは控訴人及び佐川急便グループにとって得策ではないとの判断となり,同年10月ころには,次第に東京佐川を控訴人に吸収合併して保証債務を処理していこうという方針が固まっていった。
そして,翌平成4年に入ってからは,同年1月20日現在の調査結果をもとに保証債務等残高,主債務者返済,保全額,回収不能見込額等を主債務者ごとに一覧表に作成し,また,そのうち特に暴力団関係者分の一覧表も作成するなどして,そのころには保証債務等の調査結果がほぼ出そろった。
上記一覧表における保証債務等の概要は,保証債務等の帳簿残高が5208億8500万円,うち主債務者返済予定額が678億7500万円,保全資産処分予定額が920億9900万円,回収不能見込額が3609億1100万円であった。
(オ)この調査結果をもとに控訴人や東京佐川は,メインバンクの三和銀行及び住友銀行と折衝し,その全面支援の約束を取り付け,他の金融機関からも平成4年3月末までに,支援を得られるに至り,また,弁護団の交渉により保証先債権者の協力も得られることとなって,これらを同年4月16日付けで,運輸省自動車交通局貨物課長に報告した。
この報告によると,金融機関の支援の内容は,1佐川急便グループ12主管法人につき,平成4年2月から平成5年3月まで14か月間の借入金の元本の約定返済の猶予,2利息の軽減,3メインバンク2行を含む14行のシェア割りによる当面の運転資金50億円の融資実行というものであり,
保証先債権者との合意内容は,元金の返済猶予に関しては,1債権元本残高が20億円以下のものは平成5年9月21日から5年間の延べ払い,
2同40億円以下のものは同日から7年間の延べ払い,・同40億円超のものは同日から10年間の延べ払い,金利の軽減に関しては,1平成3年9月21日から平成5年9月20日まで2年間5%,2同月21日から平成7年9月20日まで2年間6%,3同月21日から長期プライムレートの0.5%増しというものであった。
また,こうして金融機関の支援及び保証先債権者の協力が得られたことにより,控訴人が東京佐川ほかを吸収合併する準備が整ったので,翌17日には,控訴人代表取締役K,大阪佐川急便株式会社代表取締役C,
東京佐川代表取締役Dの連名で「合併後の新会社の進むべき方向について」と題する書面(乙A90)を運輸省自動車交通局長に提出した。
同書面においては,東京佐川急便事件において問題となった暴力団との係わりや不明朗な外部への貸付,保証行為等を二度と起こさないよう合併の認可を得たあかつきには,経営体質の抜本的改革を直ちに実施する所存であるとして,権限乱用防止,労務管理の徹底,業務執行上のチェック体制の強化を実行し,Fは従来の役職を退き社主に就任することを表明し,控訴人は今回の6社合併を機に,「新生佐川」として生まれ変わる旨述べて結んでいる。
そして,平成4年5月11日,控訴人が控訴人を存続会社として,東京佐川及び大阪佐川急便株式会社ほか4社を吸収合併する第1次合併が成立した。
その際,近い将来残りの地区の主管店すべてとの第2次の合併をすることが予定されており(それが支援銀行団の支援の条件であり,
また,運輸省の行政指導の内容でもあった。),そのため,佐川急便グループの主要ブロック店(主管店)の社長も控訴人の取締役に名を連ねることとなり,被控訴人も控訴人の取締役に就任した。
(カ)第1次合併により,東京佐川は,控訴人東京本社となり,東京佐川急便事件による保証債務等の処理は,そのころ新設された経営企画部の部長に就任したUのもとで,同部に移ったLが2名の女子事務員の補助を受けて担当することとなり,それ以前同様に主として弁護士からの報告をまとめ,資料を作成する仕事を行っていたが,担当人員の不足や,前記のとおり遅くとも平成4年1月ころまでは保証債務額や回収予定額等の確定を最優先に作業してきていたこともあって,資料の整理等が十分行われておらず,多数のダンボール箱に未整理のまま入れられているような状況で,債権回収作業はほとんど進んでいない状態にあった。
(キ)ところで,従来の控訴人及び佐川急便グループは,創業者であるFが絶大な権力を有し,その長男Eも統括会社清和商事の社長として大きな権限を有していたところ,平成2年4月の前記合併により京都佐川が清和商事を吸収して控訴人となった際,Eは単なる取締役に止まるに至り,
さらに東京佐川急便事件発覚とほぼ同時期の平成3年7月9日には,控訴人の取締役を解任されて,以前のように大きな法的権限を持たない立場となった。
Fも,東京佐川急便事件後,第1次合併の際には控訴人の取締役に就任はしたものの,前記運輸省自動車交通局長への提出書面記載のとおり,同様な事件の再発防止のための諸策の一環として事実上社主という立場に退き,さらに平成4年5月3日には控訴人の取締役を辞任するに至った(以後控訴人の取締役に就任することはないまま現在に至っている。)。
もっとも,Fは,控訴人取締役辞任後少なくともしばらくの間は,控訴人に対する力を失わず,被控訴人も金沢市のFを訪ねて業務等の報告をし,指示を仰ぐことを続けていた。
そうした状況の中で,被控訴人は,同年1月から3月にかけて,佐川急便グループの東北ブロックの長として傘下のグループ各社(子会社,孫会社)の人事権を掌握していたことから,控訴人の取締役会に諮ることなく,Eを東北ブロックに属する秋田佐川急便株式会社,青森佐川急便株式会社,北福島佐川急便株式会社,福島佐川急便株式会社,栃木佐川急便株式会社の各取締役に就任させた。
そして,平成4年6月ころ,北陸佐川急便株式会社会長室のFのもとに,前記メインバンク2行の役員が訪れ,東京佐川急便事件発生後1年近くたつので,これまでどのような方針で債権の回収を進めてきたか,また,今後どういった方向に進んでいくのかを明確にしてもらわないと,
他の銀行をまとめていくことができないし,最悪の場合には支援を打ち切らざるを得ないとの申入れがあり,Fは,C及びLを呼んで説明を求めたものの,その報告が要領を得ないものであり,債権回収はほとんど進んでいないとのことであったため,被控訴人に債権の回収処理をするよう命じ,その結果,同年7月18日に,被控訴人が控訴人代表取締役副社長に就任し,その債権回収担当の役員となり,同年9月11日に,控訴人東京支社債権管理室長に就任した。
当時債権管理室の所属はLのみで,C社長が増員をしなかったことから,被控訴人が東北佐川からV外2名を同行し,この者たちに控訴人東京支社債権管理室の仕事を行わせることとした。
(ク)控訴人においては,平成4年8月ころから,ようやく債権回収に向けての作業を本格的に始動させたが,前記(エ)の段階での保証債務等の調査は,銀行団を説得してその支援を受けることを主目的としたものであったため,回収予定額(保全資産処分予定額等)の金額が正確でなく多めになっている傾向があったことから,回収作業を進めるに当たっては正確な回収予定額を把握する必要があり,また,銀行からの要請もあって,
とりあえず保証債務の担保の価値を調査することとし,被控訴人赴任の少し前のころに,以前から関係のあったチョイス及びテッドに,東京近郊の20件くらいの物件の調査を1か月で仕上げるよう依頼し,控訴人がチョイスに業務委託し,テッドがこれを下請けするという契約形態をとり,同年8月20日ころ,チョイスが,テッドから受け取った報告書を控訴人に納入した。
控訴人は,さらに未調査の物件についても物件調査を継続し,調査内容も回収に向けたより深化したものとする方針を決めたが,ホテルの企画コーディネイトを本業とするチョイスよりも調査業務を本業とするテッドの方が適任であると判断したことから,同調査をテッドに直接委託したい旨同社のA社長に打診した。
これに対し,A社長は,その調査費用が概算で1億円となる旨申し出てきたことから,Lはこれを被控訴人さらにはC社長の決裁に上げ,決裁を得て,テッドと控訴人の間で,同年10月12日ころ,控訴人がテッドに対し,調査中の物件及び未調査の物件の資料の整理,調査報告書の作成,公図寄せ図・実測図等の作成,
債権管理表の作成,その他の資料の収集・整理・作成等の業務を委託する契約が成立し,その報酬についてはこれを1億円とする旨の一応の合意が成立した。
テッドは,同年10月20日,控訴人から調査物件の資料ダンボール箱14箱分を受領し,その区分け作業に入ったが,その量の多さからこの作業に同月30日ころまでの期間を要した。
テッドは,前記の調査業務のうち一部を三和開発に下請けさせた。
その報酬額については,平成4年12月ころ,三和開発からテッドに3347万5000円の見積書が提出され,その金額で合意し,テッドから三和開発に対し,同年12月22日,平成5年2月1日,同年3月5日の3回に分け各1000万円宛の支払がなされた。
(ケ)Lは,平成4年10月21日,1億5000万円の枠をとっていただきたいとの禀議書(乙A40)を起案し,被控訴人及びC社長の決裁を得た。
控訴人は,同月23日,1億円の報酬の内金名目で5000万円をテッドに支払った。
ところで,テッドは,前記ダンボール箱の区分け作業の結果,対象物件が241件となり,さらに増加することも予想されるなどとして,Lに対し調査費を5億円程度に増額するよう申し入れてきた。
同人は,この要請を受けて被控訴人に報告し,被控訴人がCと協議した結果,調査件数が膨大であることや多くの物件に暴力団関係者がかかわっていて調査に困難が予想されたこと,債務保証額5000億円の回収を急ぐためには調査費用の負担が増えてもやむを得ないことなどを考慮し,許認可設計業務や早期処分のための企画計画実施設計については別途協議することとして,調査費用の増額を3億円の限度で了承した。
これを受けてテッドは,平成4年11月1日ころ,控訴人に対し,三和開発名義の1億0300万円の見積書(乙A45の2)を添付して,3億1518万円の見積書(乙A45の1。
物件数を241件とする。)を提出した(なお,三和開発名義のものはテッドが偽造した内容虚偽のものであることが後に判明した。)。
テッドは,同月25日ころ,控訴人に対し,三和開発名義の8200万円の請求書(乙A1の10)を添付して,同月付け(日付けは空欄)の1億5000万円の請求書(乙A1の1)を提出した。
これに対して,
控訴人は,前記10月23日の5000万円の支払のほかに,同月27日及び同年12月21日に,各5000万円をテッドに支払った(なお,
三和開発名義の8200万円の請求書も前同様にテッドが偽造した内容虚偽のものであることが後に判明した。)。
テッドの上記調査の過程で同月30日ころまでに,調査対象物件中92件は,控訴人の債権保全の関係では無関係な第三者の所有であることが判明したことから,テッドの調査対象物件は149件に絞り込まれた。
同年12月25日付けで,テッドは,控訴人に対し,3億0900万円(うち900万円は消費税。)の見積書(乙A46。
物件数を149件とする。)を提出した。
テッドは,平成5年1月7日,控訴人に中間金5000万円の請求書(乙A1の2)を提出し,これを受けてLは報酬3億円のうちの中間金5000万円の支払の決裁を求める禀議書を起案して,控訴人及びC社長の決裁を得,控訴人は,同月29日,テッドに対し,内金5000万円を支払った。
(コ)テッドは,同年2月12日,控訴人に対し,成果品を納入して,残金1億0900万円の請求として,同日付けの5000万円と5900万円の請求書2通(乙A1の3,4)を提出した。
これを受けて,Lは,テッド依頼分については完了したので,請求された残金の支払を求める旨の稟議書を起案した。
ところが,控訴人内部で,残金の支払には経費の領収証の提出が必要であるという意見が出たため,Vからテッドに対し,当該領収証の提出を求めた。
そこで,テッドは,下請け業者の三和開発に平成5年2月5日付けの金額白地の請求書を発行してもらい,これに勝手に2400万円の金額を打ち込んで同社名義の偽造請求書(乙A1の11)を作成するとともに,同社から受け取った白紙の領収証用紙をコピーしこれを利用して5通の偽造領収証(乙A1の5ないし9)を作成し,これらを控訴人に提出した。この偽造も後に判明するところとなった。
これらを受けて,同年3月5日,控訴人は,テッドに対し,残金1億0900万円を支払った。
(サ)本件に関しては,チョイスの調査報告書とテッドの調査報告書が作成され,更に追加的に一部の物件についてはスミスの調査報告書が作成されている。
そのほか,株式会社岡本不動産鑑定事務所の下請けとしてテッドが作成した調査報告書も作成されている。
チョイスの調査報告書は,対象物件数が79件,調査項目は物件ごとに多少の変動があるものの,その多くにおいては,位置図,案内図,不動産登記簿謄本,公図写し,現況写真,物件概要書,調査報告書の7項目ないしこれに現況写真撮影方向図を加えた8項目であり,一方,テッドの調査報告書は,対象物件数が149件,その調査項目はこれも物件ごとに多少の変動があるものの,その多くにおいて,チョイスの調査報告書にある8項目に加えて,債権管理表,測量図,都市計画図が含まれているが,測量図,都市計画図はそれぞれのコピーを作成したにすぎないものであり,債権管理表も,物件の所在,地番,家屋番号,所有者,地目,種類,構造,面積,坪換算等,担保権の種類,設定年月日,債権限度額,設定額,債務者名,債権者名,共同担保の有無等の不動産登記簿の記載事項を一覧表化したにすぎないものであって,どちらの調査報告書においても,外形的事項から踏み込んだ内容を記載するとすれば,それは調査報告書中に書き込まれることになるが,テッドのそれにおける記載に,その資料を得るために多額の報酬の根拠となるほどの労力を要したことをうかがわせるような内容はない。
平成9年になって,控訴人からの依頼により株式会社国土鑑定研究所がテッドの調査報告書の作成報酬を同年6月1日時点で評価の基準として不動産鑑定業者が不動産の鑑定業務に関して請求できる報酬の基準(昭和59年4月17日国土庁告示第2号及び平成9年3月26日国土庁告示第1号)を用いて見積もったところ,同作成報酬の適正価額は9454万6200円となった。
控訴人は,テッドに対し,この見積報酬額を根拠に,高額な報酬を詐取された不法行為を理由とする2億1032万6000円の損害賠償請求訴訟を提起し(東京地方裁判所平成6年(ワ)第5820号),全額を認容され,確定している。
(シ)控訴人代表取締役副社長Kは,平成4年12月5日代表取締役を,同月20日には取締役も辞任したが,その後の控訴人の調査によると,同人の代表取締役社長在任(在任期間は,控訴人発足時から第1次合併時まで)中,平成2年5月から8月にかけて,取締役会の議を経ないでEに対し合計2億2000万円を貸し付けていること,また,平成3年7月から平成4年1月にかけて,株式会社京都太陽に対し,取締役会に付することなく,委託業務の内容が明確でないまま7800万円の業務委託費を支払っていること,東京佐川急便問題についても調査を委託しているが,結果報告もないまま放置されていたこと等が判明し,さらに,被控訴人もEの権限外の行為にきわめて密着して行動していたこと等も判明した。
(ス)一方,控訴人においては,平成4年9月ころから平成5年6月ころまでの間に,いわゆる東京佐川急便事件のような事件の再発防止を期して,控訴人京都本社監査室主査のWが事務局となり,外部の税理士8名に委嘱して,控訴人の12主管店の監査を行った。
前記Wは,平成5年5月から6月にかけて行われた控訴人東京支社の監査において,領収証番号・領収日付がなかったり,収入印紙の割り印がなかったり,タイプライターで金額が記載されたりしていたことから前記領収証の偽造を発見し,三和開発やテッドの調査もして偽造の事実の裏付けを得た上,テッドの調査報酬は不当に高額であると判断し,同年6月ころその旨の監査報告書を作成し,控訴人に提出した。
また,東北佐川の監査においても,前記2(3)イ(ア),(イ),ウ,エ(ア),(ウ),(エ)の各不正があるものと判断し,資料を付して監査役にその旨の報告書を提出した。
その他,Wは,控訴人監査役室長を介して,特に2(3)ウ(エ)の荷捌き料に関しては主管店である東北佐川の長としての被控訴人に対し指摘事項として報告を求め,これに対し被控訴人は,東北佐川の代表者として,不正がないことを説明する内容の報告書を同年7月3日付けで作成し,同日控訴人監査役室長宛発送した。
控訴人においては,東京支社に対する上記の監査報告を受けて,同年5月25日被控訴人を債権管理室長から解任し,一旦債権管理室も閉鎖した。
なお,同年6月7日ころ,Nが後任の債権管理室長に就任し,その後の控訴人における債権回収業務を担当した。
Nは,被控訴人やLから組織的な引継を受けることや,債権回収に有益と思われるような裏情報の引継を受けることはなく,同人のもとで,保全物件とされていたものはほぼ回収ができたが,それ以外はほとんど回収できずに破産申立てや回収不能として償却する等してほぼ処理が終了した。
(セ)平成5年6月22日,控訴人副社長Dを尾行していた者が取り押さえられ,その者が興信所の人物で,山形佐川急便株式会社代表取締役であるG名(住所も同一)で調査依頼がなされていることが判明し,同年7月1日,控訴人の専務等がGの事情聴取をしたところ,同人は積極的な弁明を何らすることなく,質問に対し,答えに窮したり,沈黙したりするのみであったことから,控訴人経営陣は,Gが前記尾行に関与していた可能性が高いと判断し,また,同人と被控訴人との関連についても強い疑いをもった。
そこで,控訴人経営陣は,Gを山形佐川急便株式会社の取締役から更迭する方針を決定し,同年7月8日午前11時から全員出席株主総会として同社の臨時株主総会を開催することを決め,C社長(控訴人社長であるとともに当時山形佐川急便株式会社の株主である東北佐川の代表取締役でもあった。)及び控訴人副社長Dは会場に赴いたが,出席を求めていた被控訴人は出席せず,Gも被控訴人の指示がないと出席できないとして出席を拒否した。
全員出席株主総会は予定どおり開催され,Gの取締役解任と,後任の取締役の選任が決議された。
それを受けて同月13日開催された代表取締役選任のための山形佐川急便株式会社取締役会において,取締役として出席した被控訴人及びEは,Gの解任理由を明らかにするよう発言し,事務局からの取締役会は取締役解任理由の当否を討議する場ではないとの説明を経て,後任代表取締役が選任された後,その場で事務局が作成した取締役会議事録に署名を求められて,これを拒否した。
(ソ)以上の経緯から,控訴人経営陣は,被控訴人を東北佐川代表取締役及び取締役から更迭する方針を決め,東北佐川の32パーセントの株主であるFの了承を得た上,被控訴人を東北佐川代表取締役から解任した後,同取締役も解任した。
(タ)平成6年9月27日,控訴人と東北佐川,九州佐川急便株式会社外7社とが,控訴人を存続会社として合併した。
(チ)第2次合併後も,控訴人はEに15億円の貸付金問題の解決を呼びかけたけれども具体的回答はなく,控訴人は,Eに対する貸金請求訴訟を提起し,平成8年7月12日控訴人勝訴の判決(欠席判決)が言い渡され,控訴がなく確定した。
ウ以上の事実に照らし,控訴人による被控訴人の本件解任に正当事由があるかどうかを検討するに,控訴人は,いわゆる東京佐川急便事件により5000億を超える多額の保証債務を負担することとなって,かつてない経営危機に直面し,早急な経営建て直しが求められて,その一環として保証債務の求償債権をできるだけ多く回収することが緊急の課題となっていた上,暴力団との癒着などといった企業としての社会的なマイナスイメージを払拭して経営の透明化,健全化(その中には創業者親子に権力が過度に集中していることの是正も含まれる。)を図る必要に迫られていた状況のもと,東北佐川社長であった被控訴人に対し,控訴人東京本社の債権管理室長の兼務を命じて,控訴人における債権回収の実を上げようとしたものであるが,被控訴人は,前記認定の山形佐川急便株式会社代表取締役解任の際の行動などに見られるように,控訴人経営陣の方針に反する行動をとるEと行動を共にすることが多いことがH解任後やK社長辞任後の調査により判明するに至ったところ,本件解任の当時,控訴人は,運輸省の行政指導と銀行団の支援を受けて行ってきた前記の経営建て直しのための一連の過程の最終段階である第2次合併の日程の検討に入っていたころであって,控訴人経営陣の方針に反してEとともに東北佐川を他の佐川急便グループと独自の動きに導く可能性があることが明らかとなった被控訴人をそのまま放置することは,第2次合併の成否に重大な影響を及ぼしかねず,東北佐川ひいては控訴人(第2次合併前のもの)の業務の執行に重大な支障を来すおそれがあったことは否定できない。
しかも,そうした状況の中で被控訴人が直接管理監督責任を負う債権管理室担当の業務委託先であるテッドの調査費用の領収証等関係書類に偽造文書が見つかり,多額の不適正な調査費用が支払われたものと判断される事態を生じさせたものである。
すなわち,株式会社国土鑑定研究所がテッドの調査報告書の作成報酬を,平成9年6月1日時点で評価の基準として不動産鑑定業者が不動産の鑑定業務に関して請求できる報酬の基準(昭和59年4月17日国土庁告示第2号及び平成9年3月26日国土庁告示第1号)を用いて見積もると9454万6200円であり,控訴人のテッドに対する前認定の訴訟でも,これを主たる根拠として2億円余りの損害賠償請求が認容され確定していること,テッドの調査報告書の内容や控訴人に対する見積りや請求に当たって三和開発名義の偽造の見積書や請求書を提出していること,それに短期間に調査費用が増額された経緯や調査物件が149件に絞り込まれたにもかかわらず減額されなかったことなどからすると,調査物件が多く,調査物件の資料ダンボール箱の整理だけでもかなりの日数を要したこと,多くの物件に暴力団関係者がかかわっていて調査に困難が予想されたことなどを考慮しても,その適正調査費用(報酬)額はせいぜい1億5000万円程度と認めるべきであり,3億0900万円という調査費用(報酬)は合理的根拠が乏しく高額にすぎるといわざるを得ない(被控訴人は,報酬の支払を受けた後もテッドから逐次追加資料を提出して貰うこととなっていたと主張するが,既に報酬全額の支払を受けた後のことであるから,その分の報酬額は微々たるものにすぎないと考えられる。)。
被控訴人は,債権管理室長としてテッドを調査業務委託先に選定したものであり,テッドとは初めての直接取引となるのであるから,テッドの見積りや請求が適正なものか否か出入りの弁護士や不動産鑑定士等の意見を聞くなど十分検討して上司の決裁を受けるとともに,テッドから下請の領収証等を徴するとか,上記のとおり調査物件を絞り込んだときに報酬の見直しを行うなど適切に対応すれば,こうした事態の発生を未然に防止することができた可能性があったものと考えられるが,そうした配慮等がなされたことは窺うことができない(原審被控訴人本人は,Lに対し,領収証がある場合は提出するようにテッドに伝えるよう指示した旨供述するが,平成5年2月に支払に必要であるとして経費の領収証を持参するよう要請するまで,そうした書面がテッドから提出されておらず,被控訴人がその提出を促した事実も窺われないから,その供述は俄に信用できない。)。
もとより,被控訴人から相談を受けたり,決裁するなどしたCなどの責任も問題となるものの,その故をもって被控訴人はその責任を免れることはできないというべきである。
したがって,偽造の領収証等を看過した点はさておくとしても,被控訴人が控訴人の債権管理室の室長として,上記事態を招いた責任は軽視することができない(なお,当時,控訴人代表者らは,控訴人の主張(3)イないしエの各点についても被控訴人の不正を疑ったが,前記のとおりいずれも不正と評価すべきものではない。)。
そうすると,本件解任には正当事由がないとはいえないことになるから,結局請求原因(3)を認めることができず,請求原因(4)について判断するまでもなく,取締役解任による損害賠償は認められないこととなる。
なお,被控訴人は,控訴人の主張(3)オは時機に後れた防禦方法であると主張するけれども,本件事案の内容,原審において主張しなかった事情,当審の冒頭において主張されたものであること等を考慮すると,時機に後れたものとして却下すべきとまでは認められず,被控訴人の主張は採用できない。
(3)請求原因(5)について
甲A13の1ないし8によれば,平成4年12月分から平成5年7月までの被控訴人の東北佐川における役員報酬は,月額600万円とされていたことが認められる。
しかしながら,前記(第3,1(2)ア)認定のとおり,被控訴人は,当時の東北佐川の業務の一つとして,Hの調査のために4000万円,Iの調査のために1000万円を支出することとし,これらの調査が控訴人の監査等においてHやI及びそのそれぞれの関係者に洩れる可能性があり,それを防ぐために,東北佐川から調査受託者に対する支出とせずに被控訴人に対する貸付金の形をとったもの(ただし,以下記述の便宜のため,これらを「貸付」または「貸金」と,その償却のための経理処理を「弁済」ということとする。)
で,そのために,被控訴人が東北佐川に弁済するという形の処理がなされており,証拠(甲A12の1,4,6,8,A13の1ないし8,B1の2,1の3の1,2,B1の4,5,B2の3,乙A69,70の1ないし3,71の1ないし28,B5,被控訴人本人(原審))によれば,被控訴人の役員報酬は,平成元年8月分から月額350万円であったところ,平成2年7月の4000万円の貸金について,当初毎月28万円の分割弁済とされて,これが役員報酬から天引され,同年10月に,翌11月から概ね毎月40万円ずつ役員報酬から天引して弁済するとの処理をすることと変更される(なおその後何回か処理の詳細は変更されている。)と,時期を同じくして同年10月分から月額420万円と増額され,途中同年12月分から平成3年6月分までは月額520万円と引き上げられ,同年7月分からは月額500万円とされた後,平成4年7月の1000万円の貸付の際,その弁済として月額15万円ずつ役員報酬から天引して分割弁済することが定められると,同様に同年9月分から月額600万円に引き上げられていること,実際の支給額においては,平成3年5月2日に支給された同年4月度役員報酬から平成4年8月5日支給の同年7月度役員報酬まではそれぞれ40万円ずつ天引され(ただし,その間5か月天引のない月があった。),同年8月度及び9月度報酬からは45万円,同年10月度報酬以降平成5年7月度報酬までは50万円天引されていることが認められる。
したがって,既に説示のとおり被控訴人に対する役員報酬額は,前記貸付に対する被控訴人による弁済の必要を考慮し,それを補填する趣旨で,弁済金にほぼ見合う分だけ増額されたものであり,この増額分は本来被控訴人に対する役員報酬の性質を持たないものと認めざるを得ないから,この部分は被控訴人に対する未払報酬額を考えるに当たっては控除する必要がある。
そうすると,直近の平成5年7月度の被控訴人の役員報酬から前記の貸金の弁済として天引されている金額は50万円であるから,これを前記月額600万円から控除した550万円を基礎とし,1か月を31日間として平成5年7月21日から同年8月18日までの被控訴人に対する未払取締役報酬額を算定すると,その額は514万5161円となる。
(4)請求原因(6)について
請求原因(6)の事実については当事者間に争いがない。
(5)以上によれば,被控訴人の本訴請求は,778万5161円及びこれに対する平成5年12月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2 乙事件について
乙事件についての判断は,原判決95頁10行目から同96頁3行目まで(ただし,当判決第3,1(2)アにおいて訂正後のもの)において説示するとおりでるから,これを引用する。
3 よって,被控訴人の本訴請求は,主文1(1)記載の限度で理由があるから認容し,
その余は棄却すべきであり,控訴人の本訴請求は棄却すべきであるから,これと一部結論を異にする原判決を変更し,主文のとおり判決する。

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